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万年筆のメカニズム<2>

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森山モデル


上段:メーカー3B 下段:森山モデル3B



森山モデルとは

この森山モデルとは、B以上の極太ペン先を、その形状を全く変えて調整したペン先のことで、1991年に若いライターの方によって雑誌で紹介され、また命名されたものである。

この発想の起源は、1970年代後半に製造されたモンブランのペン先、特にM(太字)の書き味がものすごく良かったことにある。それにひきかえ極太のペン先は四角い形状のために自分の書き方で使うと四角の角が当ってインクが切れたりヒッカカる。そこで極太のイリヂウムポイントの四角い角を削り、Mの形状のさらに大きくした形状にすればMよりももっと書き易くなるのではということだった。

1980年頃、当時のモンブランの社長ヂャンボア氏が書き易いとはこういうペン先だと取り出した万年筆のニブポイントを見た時に「これはスペシャルメイドで元はBだろう」と言うとニヤッと笑ってその通りとのこと。

1984年にシナリオライターに万年筆を送る時にこの方法で研ぎ出したところ、「何たる書き易さでしょう」との言葉に自信を持った。さらに1991年1月この調整を加えた万年筆を試した方が「まさにこれがヌラヌラですね」と言い、どうしても自分のペン先もこの方法で調整してくれとの要望に沿って調整を行った。この人が1991年12月、とある雑誌でこれを『森山モデル』と命名した。


左:メーカー3B 右:森山モデル3B



森山モデルのメカニズム

B、BB、3BとかOB、OBB、O3Bという極太のペン先は、紙に当る先端部分が四角い形状である。これら極太のペン先は、図6で見ていただければお判りであるが、ニブポイントの先端部分が四角で、紙に当たる部分は平らである。これらをそのまま使用する場合は、ニブポイントの平らな部分が同時に紙に接しないと、書き出しにインクが切れたり、ポイントの角が紙に当たるため、書き味も悪くなる。

しかし、ニブポイント右と左が同時に紙に当たる人は、ほんの数パーセントしか居ないだろう。全てのペン先は、使い手の筆記角度に合わせて調整すべきというのが私の考え方であるのだが、その太さと形状から、B以上の極太のペン先は、際だって機能してくれないのである。何とかこれら極太のペン先を書き出しにインク切れせず、そしてなめらかに書けるよう調整したいと考えた結果が、森山モデルであった。この調整方法を図にしたので説明する。

(図5)



(1) メーカーで製造されたままの極太ペン先
(2) まず、ニブポイントの両側面だけを、
   機械につけた特殊なグラインダーで落とす。
(3) 次に、やはり機械につけられた別のグラインダーで、
   側面から下面のポイントを丸く削り落とす。
それから先は、(3)と同じ形状なので図を描かないが、機械につけられた、更に細かいグラインダーで、その次にはフェルトで磨き上げる。最終的には、使い手の角度に合わせ、30年前に製造されなくなってしまった和紙に研磨材を手塗りで作られたペーパーで、何度も何度も繰り返し研ぎ上げる。このように極太のペン先の四角いイリヂウムポイントの角を丁寧に削り出して丸味をつけて調整したものが森山モデルと呼ばれる製品である。

余談だが、よく1本仕上げるのにどの位の時間がかかるのと質問を受ける。しかしその質問に答えることはできない。なぜなら、自分でも不思議に思うのだが、同じメーカの同じモデルの同じペン先の太さで、同時に調整を始めても、1本は、ひと通り調整の工程を済ませると完了するが、もう1本はどうも今一歩である。更に時間をかけてもなかなか言うことを聞いてくれない。日を改めて仕切り直しなどと言うことが森山モデルに限らずEFやMでもある。何故だろうと考えると、まず己の技術の問題、でもどうもそれだけではないような気がする。モンブランに在職していた時には、ペン先調整で2度、3度のスランプを経験し、また、言うことを聞いてくれない奴は、本当に腹が立つほど言うことを聞かない。そういう経験から、こいつらは物を超えたところにいるような気がする。

話がそれてしまったが、森山モデルの調整をすると、縦の線は少し細くなり、横の線が少し太くなって、縦・横の線の太さの違いがなくなりほぼ同じような太さとなり、左右のネジレに対する許容量と書き味のなめらかさが大いに増すのである。

この調整の最大の特徴は、
  1. ニブポイントの紙に接する面を拡げるために、山口瞳さんではないが、ヌラヌラ・スルスルと書けると思っている。
  2. これら極太ニブは、本来筆記角度の許容範囲が全くないと言っても過言ではないが、この調整をすることにより、この許容範囲が大きく広がる。

きっと良かったと言っていただけると思うので、いつの日にか、1本だけでも試していただきたいものだと思っている。
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